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【第2回】作業療法における物語的リーズニング【Web連載】

京極真
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本記事では「物語的リーズニングってなに?それって、おいしいの?」という疑問にお答えします。

皆さん、作業療法士としての業務の中で、クライエントの作業、疾患、障害が彼ら彼女らにどのような意味を持っているのか、を理解することは難しいと感じたことはありませんか?

疾患や障害の医学的な側面を理解することはもちろん重要ですが、それだけではクライアントの真の作業ニーズ、作業的生活などを捉えることはできません。

この記事を読むことで、クライエントの物語を深く理解したうえで考えるための「物語的リーズニング」について学ぶことができます。

この作業療法リーズニングを取り入れることで、クライエントとの関係性をより深化させ、作業中心の実践を提供するための手助けとなるでしょう。

なお、本記事とあわせて、私が編著者を務める『作業療法リーズニングの教科書』もあわせてご覧いただけると、よりよく理解できるかと思われます。

ぜひ書籍の方もお読みください。

Web連載(リーズニング編)は、毎月第2月曜日・第4月曜日(年末年始を除く)のペースでアップする予定です。

作業療法における物語的リーズニングとは?

リーズニングとは?

リーズニングは、作業療法士がクライエントの作業機能障害を解決する際の核心的な思考プロセスです[1]。

わかりやすく言えば、疑問を立てて解消・解決する思考のことです。

作業機能障害とは、日常のさまざまな作業を適切に行えない状態を指します。

このリーズニングは一般的に以下のようなプロセスをたどります。

  1. 疑問を生成する:作業療法士は、クライエントに関する何らかの疑問を特定します。これは、リーズニングの出発点であり、思考するうえで最も重要です。
  2. 情報を収集する:作業療法士は、疑問にそって情報を集めます。情報源は、スクリーニング、面接、観察の他に、論文や著書、他職種からの情報、倫理原則、法律なども含まれます。
  3. 情報を分析する:作業療法士は、収集した情報を整理・検討します。疑問の解消・解決に役立つ情報を見つます。
  4. 疑問を解消・解決する:作業療法士は、分析した結果をもとに、最初に考えた疑問が解消・解決できるかを判断します。それは次の新しい疑問につながったり、具体的な評価や介入に発展したりすることもあります。

作業療法士としての私たちの業務は、作業機能障害を理解するために、クライエントの疾患や障害を超えて、作業を包括的に理解することが求められます。

物語的リーズニングとは?

この深い理解を得るための鍵が、「物語的リーズニング」です。

では、物語的リーズニングとは具体的に何なのでしょうか?

物語的リーズニングは、クライエントの個人的な物語を受け入れることに焦点を当てた思考プロセスです[1]。

それは主に、クライエントの生きた経験、つまり日々の作業、強み、弱み、そして周囲の世界をどのように捉え、どのように関わっているかを理解するための洞察を得ることです。

この方法は、単にデータを収集するのではなく、クライエントの生活や人生の経験の意味を、クライエント自身の物語の中で理解することにあります。

つまり、物語的リーズニングの核心は、クライエントの視点からクライエントのストーリーを理解することにあります。

これにより、作業療法士はクライエント独自の作業ニーズを念頭においた介入を計画し、実行することができます。

また、物語的リーズニングには、クライエントと作業療法士が共同で将来の道筋を描く役割もあります[1]。

作業療法士にとって最初のステップは、クライエントが過去から現在にわたって生きている物語を理解することであり、そしてクライエントが自分自身にどんな未来を予見しているかを把握することです。

同時に作業療法士は、クライアントの物語が現状どのような意味をもち、どのように展開していくのかについて、専門的な理解に基づいた視点をもちます。

そして、クライエントと作業療法士は、この2つの物語を融合させて、新しい物語を共同で創り上げていきます。

この共有された物語は、今後の介入のロードマップとなります。

このように、物語的リーズニングを活用することで、作業中心の実践を実現することができるのです。

作業療法における物語的リーズニングのコツ

物語的リーズニングとは、物語を用いた思考の方法です。

物語は作業療法士が作業的存在としてのクライエントをよりよく理解し、クライエントにとって有意義で適切な介入を計画するのに役立ちます。

ここでは、以下に物語的リーズニングのコツを解説します。

クライエントの視点を理解する

物語的リーズニングとは、クライエントの話を聞いて、クライエントがどう思っているか、どう感じているかを理解することです[1]。

例えば、あるクライエントは自分の趣味である絵画ができなくなったことに悲しみを感じているかもしれません。

そのクライエントの絵画に対する思いや価値観を知ることが大切です。

物語的リーズニングは、クライエントから物語を聞くことによって、クライエントがどういった視点をもっているのかを理解していきます。

クライエントのストーリーを活用する

物語的リーズニングで焦点化するクライエントの人生の物語は、OTにとって最も重要な情報源です[1]。

クライエントがどんなことに興味があるか、どんなことに困っているか、どんなことが得意か、どんなことがしたいかを知ることで、OTはクライエントに合った介入を考えることができます。

例えば、あるクライエントは自分の家族や友人との関係を大切にしているかもしれません。

そのクライエントには、コミュニケーションや社会参加に関する目標や活動が必要になるかもしれません。

物語的リーズニングは、クライエントの物語を視点に作業療法プロセスを展開します。

共同で物語を生成する

物語的リーズニングは、作業療法プロセスを通して、OTとクライエントが一緒になって物語を作り上げることです[1]。

OTは、クライエントの過去の経験や現在の状況だけでなく、未来の夢や希望も聞くことが大切です。

そして、クライエントが自分の人生に満足できるように、新しい物語を作り出すお手伝いをします。

例えば、「私はギターができなくてつまらない人生だ」と思っていたクライエントが、作業療法プロセスを通して「私はギターが好きで、ギターに関する色々なことを学びたい人だ」と思えるようになることがあります。

物語的リーズニングは、その要として使うことができます。

物語的リーズニングのプロセス

以上を踏まえたうえで、物語的リーズニングのプロセスを例示すると以下のようになるでしょう。

なお、物語的リーズニングは複雑な思考プロセスであるため、実際には行きつ戻りつしながら進行する点にご注意ください。

  1. 疑問を生成する:物語的リーズニングの始まりは、クライエントの「物語」に関する疑問を持つことです。例えば、「クライエントのライフストーリーはどのようなものか?」「この人はどんな作業的存在なのか?」などです[2]。このような基本的な疑問から、リーズニングのプロセスが開始されます。
  2. 情報を収集する:クライエントから作業歴、人生経験などの物語をお聞きします。ここでは、クライエントの健康状態やそれがライフストーリーや作業にどのような影響を与えたかに関する情報も含まれます。
  3. 情報を分析する:収集した情報を深く分析し、クライエントのライフストーリーや作業的存在としての本質、健康状態の影響などを理解することを目指します。例えば、「この人にとって最も重要な作業は何か?」「健康状態はその人のライフストーリーや作業遂行にどのような影響を与えているか?」[2]といった観点から物語の特徴を検討します。
  4. 疑問を解消・解決する:上記の情報収集と分析を基に、クライエントの人生の物語のテーマを把握したり、クライエントにとって大切な作業を理解したりします。また、そうしたことは最も適切な介入の計画や実行の基礎になります。

このリーズニングのプロセスを参考にすることで、作業療法士はクライエントの作業ニーズをしっかり理解し、それに基づいて最適なサポートを提供することができます。

作業療法士のためのリーズニング学習支援ツール

以上のようなリーズニングを習得するための教材として、「作業療法士のためのリーズニング学習支援ツール」を無料で提供しています。

Microsoft Excelで作成したアプリケーションでして、Windows、Macのどちらでも動きます。

作業療法リーズニングを習得したい人は、ぜひご活用ください。

物語的リーズニングのメリットとデメリット

作業療法士として、私たちはクライエントのニーズや背景を理解するためのさまざまなアプローチを学び、実践しています。

その中でも「物語的リーズニング」は、クライアントの物語や経験を中心にした思考プロセスとして重要です。

しかし、この作業療法リーズニングにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?

メリット

物語的リーズニングを用いることで、クライアントの視点や物語を中心にした作業療法を提供することができます。

これにより、クライエントの真のニーズや感情、価値観を尊重し、それに基づいて最適な介入やサポートを行うことができます。

また、クライエントの物語や経験を深く探ることで、彼ら彼女らの生活や価値観、感情の背景をより深く理解することができます。

これにより、より効果的なケアやサポートを提供することが可能となります。

デメリット

一方、クライエントの物語や経験を深く探るためには、十分な時間が必要となる場合があります。

これにより、他の業務やケアに割く時間が減少するリスクがあります。

また、物語的リーズニングだけに頼るのではなく、他のリーズニングとのバランスを適切に取る必要があります。

これにより、より総合的な作業療法を提供することができるようになります。

まとめ

私たち作業療法士は、日々の業務の中でクライエントの作業ニーズや背景を理解し、最適な作業療法を提供するためのさまざまなアプローチを学び、実践しています。

その中でも「物語的リーズニング」は、クライエントの物語や経験を中心にした思考プロセスとして非常に重要です。

物語的リーズニングは、クライエントの真のニーズや感情、価値観を深く理解し、それに基づいてケアやサポートを行うための非常に有効な思考法です。

このリーズニングを行うことで、作業中心の実践実現し、彼らの生活の質を向上させることができます。

ぜひしっかり行えるようになりましょう。

作業療法リーズニングをもっと学びたい人へ

本記事では、作業療法リーズニングの一種である物語的リーズニングについて解説しました。

作業療法リーズニングはこれ以外にも、科学的リーズニング、実際的リーズニング、倫理的リーズニング、相互交流的リーズニングがあります。

また、その基盤には作業中心のリーズニングが存在しています。

さらに深く作業療法リーズニングについて学びたい方は、無料Webセミナー「作業療法リーズニング入門講座」に参加してください。

このセミナーでは、私(京極)が講師を務めており、作業療法リーズニングについて詳しく解説しています。

作業療法リーズニングは、作業療法士としての専門性を高めるための重要なツールです。

無料Webセミナーを通じて、作業療法リーズニングの全容を理解し、日々の業務に活かしていただければ幸いです。

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文献

[1] 藤本一博,小川真寛,京極真・編:5つの臨床推論で整理して学ぶ 作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2022

[2] Gillen G, Brown B (Eds). Willard & Spackman’s occupational therapy 14 ed. Wolters & Kluwer, Baltimore, 2023

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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