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【第7回】作業中心のリーズニング【Web連載】

京極真
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 本記事では「作業中心のリーズニングって何?他のリーズニングとはどんな関係にあるの?」といった疑問にお答えします。読者は本記事を読むことによって、作業中心のリーズニングを深めることができます。

 本記事の著者は『作業療法リーズニングの教科書』[1]の編著者であり、『作業療法リーズニング基礎講座』の講師でもあります。本記事を通して作業療法リーズニングについてわかりやすく解説してきますので、ぜひ最後までお読みください。

作業中心のリーズニング

 作業療法における「作業中心のリーズニング」(Occupation-Centered Reasoning, OCP)は、作業療法の基本的な考え方であり、クライエントが直面する様々な課題に対して作業を軸に考えるためのアプローチを指します[2]。このリーズニングは、クライエントの生活の質を向上させるための作業に中核に考えることを重視しています。

 作業中心のリーズニングの核心は、個人が日常生活で行う作業が、その人のアイデンティティ、健康、幸福感、公正に大きな影響を与えるという理解に基づいています。作業療法士は、クライエントが自分にとって意味のある作業に参加することが重要であるという考え方のもとで実践します。

 また、作業中心のリーズニングは、作業療法プロセス内で「作業に根ざした実践」(Occupation-Based Practice, OBP)と「作業に焦点を当てた実践」(Occupation-Focused Practice, OFP)というかたちで作業療法士の実践に反映されます[2]。OBPではクライエントが実際に行う作業で評価・介入が行われ、OFPではクライエントの作業に作業療法士の近位で直接の注意を向けることが求められます。

 作業療法士は、クライエント一人ひとりのニーズを深く理解し、その人が直面する作業機能障害に対してカスタマイズされた評価や介入を提供します。このプロセスでは、クライエントの身体的、精神的、社会的な側面が全て考慮され、最適化された作業への参加が促進されることを目指しています。

 このように、作業中心のリーズニングは、クライエントが自分の生活で重要と感じる作業に参加できるように、作業を軸にあれこれ考えることを指します。そして、作業療法士は、そのための専門的な知識と技術を持って、クライエント一人ひとりに合ったサポートを提供していきます。

作業中心の実践

 作業中心のリーズニングは、作業中心の実践(Occupation-Centered Practice、OCP)のリーズニングの側面を表しています[2]。つまり、その土台には作業中心の実践があります。

 作業中心の実践は「実践」という名であるものの、実際には、作業療法士の世界観や視点を意味しています。これは、クライエントが日常生活で意味のある作業に参加できることに価値をおくものです。作業中心の実践は、作業療法士が作業療法の専門的立場にたって世界を理解することであると言えます。

 作業中心の実践の核となるのは、作業療法のコアパラダイムと作業療法士の世界観や視点を結びつけることです。わかりやすく言うと、作業療法のコアパラダイムは、作業機能障害を体験する作業的存在として人間を理解すること、人間の生活・人生における作業の価値を認識すること、作業療法プロセスにおいてOBP、OFPを行うこと、といった規範です[2]。このパラダイムは、人間の生活における作業の本質的な価値を強調し、病気や障害を超えてクライエントが意味のある作業に参加できるよう支援することを目指しています。

 作業中心の実践は、このコアパラダイムに深く根ざしており、作業療法士はクライエントが直面する作業機能障害に取り組むための視点を提供することによって、コアパラダイムの理念を実践に移しているのです。さらに、OCPはクライエント中心の実践(CCP)、エビデンスに基づいた実践(EBP)、生態学的に関連した実践(ERP)、文化に関連した実践(CRP)といったアプローチとも連携しています。

 このように、作業中心の実践は作業療法士の視点を具体化し、コアパラダイムに基づいてクライエントの生活の質の向上を図るための根幹をなすものといえます。

その他のリーズニングとの関係性

 さて、作業療法リーズニングは科学的リーズニング、物語的リーズニング、実際的リーズニング、倫理的リーズニング、相互交流的リーズニングなどがあります[1]。科学的リーズニングは、証拠に基づいた研究や理論を活用して、クライエントの問題を客観的に分析するアプローチです[1]。

 物語的リーズニングは、クライエントの個人的な経験や物語を通じて、その人の生活の文脈を理解しようとするアプローチです[1]。

 実際的リーズニングは、治療の現実的な側面、例えば時間、スペース、資源の利用などを考慮に入れることです[1]。

 倫理的リーズニングは、治療行為が持つ倫理的な側面、つまりクライエントの権利や自己決定権を尊重することを重視します[1]。

 相互交流的リーズニングは、クライエントとの関係を通じて構築される対人的なスキルに基づくリーズニングです[1]。

 これらの基底にあるのが、この記事で焦点を当てた作業中心のリーズニングです。それぞれのリーズニングは、作業療法士がクライアントの作業に関わる課題を理解し、適切な評価・介入を設計するために用いられる思考プロセスです。これらのリーズニングは、それぞれ異なる視点からクライアントの課題を捉え、それらを統合することで、より全面的かつ深い理解を得ることができます。作業中心のリーズニングは、これらのリーズニングの中心に位置し、クライアントが自分にとって重要な作業に参加できるよう支援するためのリーズニングの軸となります。

 作業療法士は、これらのリーズニングを統合し、そのクライアントにとって意味のある作業に焦点を当てたり、根ざしたりした評価や介入を行います。作業中心のリーズニングは、クライエントが自分にとって重要な作業に参加できるよう支援するために、これらのリーズニングを適用する際の中心点を提供します。作業療法士は、これらの複合的リーズニングを活用しながら、クライアント一人ひとりのニーズに合わせた作業療法を策定し、実施していくことが求められます。

まとめ:作業中心のリーズニング

 本記事では、作業中心のリーズニングについて解説してきました。簡単に言うと、これは「作業を軸に考えること」を意味しており、作業療法のコアパラダイムを基盤にした作業療法士の思考法となります。科学的リーズニング、物語的リーズニング、実際的リーズニング、倫理的リーズニング、相互交流的リーズニングは、他の専門職とも共通するところが多少なりともある考え方です。それに対して、作業中心のリーズニングは作業療法士独自の考え方を表していると言えます。

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文献

[1] 藤本一博,小川真寛,京極真・編:5つの臨床推論で整理して学ぶ 作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2022

[2] Fisher AG, Marterella A: Powerful Practice: A Model for Authentic Occupational Therapy. Center for Innovative OT Solutions. 2019

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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