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【第3回】作業に焦点を当てた実践・評価・介入とは?

京極真
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作業に焦点を当てた実践・評価・介入とは?

本論では、作業に焦点を当てた実践(Occupation-Focused Practice、OFP)、作業に焦点を当てた評価(Occupation-Focused Evaluation、OFE)と作業に焦点を当てた介入(Occupation-Focused Intervention、OFI)について解説します。OFPは、作業に根ざした実践(Occupation-Based Pracice、OBP)と並んで、作業療法の本質である作業中心の実践(Occupation-Centered Practice、OCP)を体現するものです。また、OFEとOFIはOFPを構成する中核概念であり、OFEがOFPの評価の側面を、OFIがOFPの介入の側面を表します。これらは、作業療法士が作業療法プロセスを通して、作業に主たる関心を向けながら評価と介入を行うものであり、作業療法の専門性を明確に反映しています。また、OFP・OFE・OFIは、作業療法と他の療法との差別化を図るうえで重要な役割を果たします。ゆえに、OFP・OFE・OFIの理解は作業療法士にとって欠かせません。

しかし、OFP・OFE・OFIは理解が難しい概念でもあります。作業療法の専門性が色濃いので、初学者にはハードルが高いと感じられるかもしれません。そこで、本論では、OFP・OFE・OFIについてわかりやすく説明していきます。あなたは本論を読むことによって、OFP・OFE・OFIの特徴や方法を理解し、作業療法士としての専門性を高め、クライエントの作業機能障害の解決に向けた実践を行うためのヒントが得られるでしょう。

なお、このWeb連載が役立ったという方は、拙著『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』(メジカルビュー社)もあわせてご覧になってください。この本では、Web連載よりもさらに専門的に詳しく解説しております。本書は、本論を通してOCP・OFP・OBPに関心を持たれた方が、次の一歩を踏みだすための絶好の機会となることでしょう。

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作業に焦点を当てた実践:Occupation-Focused Practice (OFP)

OFPとは、作業療法士の主たる関心事がクライエントがいま現在体験している作業機能障害(Occupational Dysfunction)にあり、その人らしい作業の実現を目指す実践のことです。

作業機能障害とは、クライエントの生活を構成する作業が適切にできない状態です。ここでいう作業(Occupation)とは、クライエントが現在の生活でしたいことや、する必要があることなどを指します。たとえば、仕事、日常生活活動、手段的日常生活活動、遊び、余暇、休息、睡眠などが含まれます。また、機能障害(Dysfunction)とは、「〜ができない」という意味です(Functionは「〜ができる」という意味になります)。つまり、その合成語である作業機能障害は作業ができないことを意味するのです。クライエントの生活を形つくっている仕事ができない、日常生活活動ができないなどの場合に作業機能障害であると捉えます。

OFPでは、作業療法士の視点が常に作業機能障害に向けられています。たとえば、OFPに取り組む作業療法士は、クライエントがただちに改善を必要とする作業機能障害に着目します。つまり、OFPにおいて作業療法士は、即時的かつ直接的にクライエントの作業に関する課題に関心を向けているのです。

他方、クライエントの生活に密接に関連しない作業、あるいは環境因子、個人因子、心身機能構造に関心を向けることは、OFPに含まれません。それは、作業に焦点を当てていない実践(Non-Occupation-Focused Practice: NOFP)と呼びます。NOFPは、作業療法実践を構成するものですが、作業療法の専門性を反映していない点に自覚が必要です。

作業療法士は、クライエントのライフスタイルを尊重しつつ、その人にとって意味のある作業に取り組めるよう支援します。そのためには、クライエントの今現在の生活で改善が必要な作業機能障害に焦点を当てることが何より大切なのです。

作業に焦点を当てた評価:Occupation-Focused Evaluation(OFE)

OFEの概要

OFEとはOFPの評価的側面です。OFEは作業療法士がクライエントの作業機能障害に焦点を当てて評価することです。つまり、心身機能や環境因子、個人因子ではなく、あくまでも何らかの対応が求められる「作業」そのものに注目するのがポイントです。

例えば、脳卒中の後遺症で調理が難しくなったクライエントがいたとします。OFEでは、以下のような点を評価します。

  • 調理に対するクライエントの動機
  • 実際の調理場面における作業遂行の質
  • 調理(作業遂行)と調理に影響を与える要因との相互作用

こうした評価を通して、クライエントにとって調理がどんな意味を持つ作業なのか、どこに強みや課題があるのかが見えてきます。そして、その情報をもとに、作業機能障害を改善するための介入計画を立てていくのです。

OFEの方法

OFEの方法には大きく分けて、スクリーニング、面接、観察の3つがあります。それぞれ構成的評価(研究開発されたツールによる評価)と非構成的評価(自然な観察と面接による評価)の両方があります。

1. スクリーニング

スクリーニングでは、手短にクライエントの作業機能障害の可能性をチェックします。さらに詳しい評価が必要かどうかの判断にも使います。

構成的評価の例:MOHOST、STODなど

非構成的評価の例:情報収集、初回面接など

2. 面接

面接では、クライエントの日常生活での作業機能障害について話を聞きます。クライエントは、作業遂行や作業参加、作業との結びつきなどでどのような問題を体験しているのかを把握します。

構成的評価の例:COPM、OSA、CADO、OPHI-IIなど

非構成的評価の例:ツールを使用しない作業遂行面接や作業遂行歴面接など

3. 観察

観察では、実際にクライエントが作業を遂行している様子を観て、作業遂行の質や作業遂行と関連する要素との相互作用などについて評価します。なお、観察は次回解説する作業に根ざした評価(Occupation-Based Evalutation、OBE)の方法にもなりますが、OBEは常にOFEというわけではありません。

構成的評価の例:AMPS、ESI、ACIS、VQなど

非構成的評価の例:ツールを使用しない作業遂行場面の観察や参与観察など

OFEのポイント

OFEで最も重要なのは、作業に即時的かつ直接的な焦点を当てるということです。即時的な焦点とは、今現在クライエントが直面している作業機能障害に優先的に取り組むということです。直接的な焦点とは、うまくできない作業(作業機能障害)そのものに注目することです。その場合、関連する心身機能や環境因子、個人因子は副次的だということです。

つまり、将来必要になるかもしれない作業や、環境因子、個人因子、心身機能障害を評価することはOFEではありません。そのような評価は、作業に焦点を当てていない評価(Non-Occupation-Focused Evaluation: NOFE)と呼びます。NOFEは作業療法士が使う評価ですが、作業療法の専門性を反映した評価ではなく、他の専門職の専門性が反映された評価である点に注意が必要です。NOFEが必要な場合、作業療法士自らが行うだけでなく、より専門的な専門職に評価を依頼することも検討すると良いです。あくまでも、目の前のクライエントの作業ニーズに寄り添い、作業機能障害を理解しようとするのがOFEなのです。

作業療法士として、クライエントの作業ニーズを理解し、作業機能障害を明らかにすることは何より大切です。OFEは、そのための強力なツールだと言えます。作業に即時的かつ直接的な焦点を当てる。それがOFEの肝だということを、ぜひ覚えておいてください。

OFIとは?

OFIの概要

OFIはOFPの介入的側面であり、作業療法士がクライエントの作業機能障害を改善することに焦点を当てて介入することです。つまり、クライエントにとって今現在解決が必要な作業機能障害の改善を最優先するのがポイントです。

例えば、脳卒中の後遺症で調理が難しくなったクライエントがいたとします。OFIでは、以下のような介入を行います。

  • クライエントが再び調理を行えるようになることを目標に設定する
  • 調理動作のやり方を教える
  • 調理の練習の機会を提供する
  • 調理動作の改善を最優先しながら環境調整や自助具を導入する

こうした介入を通して、作業療法士はクライエントの調理動作の遂行技能を向上させ、調理への遂行や参加を強化していきます。つまり、クライエントの調理の再獲得を支援し、その人らしい作業的生活の実現を目指すのです。

OFIの方法

OFIの方法には大きく分けて、以下のようなものがあります。

1. 作業に関する教育

  • クライエントに今現在必要な作業の知識や技能を教えます。個別で教えることもあれば、グループで学習を促すこともあります。

2. 作業遂行技能の習得や再習得

  • クライエントに今現在必要な作業遂行技能の習得・再習得を支援します。クライエントに見本を見せたり、ヒントを出したり、フィードバックしたりしながら、遂行技能の(再)習得プロセスを支えます。

3. 作業の適応や代償の促進

  • 補助具などの支援機器の提供、作業に影響を与える外的要因の修正、他のやり方の指導などで作業の改善を目指します。作業療法士の目標は支援機器の提供や環境調整それ自体ではなく、それらによって作業機能障害を変えることにあります。

OFIのポイント

OFIでは、作業機能障害の改善を直ちに目標にします。OFIは作業遂行の質の改善を図り、クライエントの作業機能障害の改善を最優先します。つまり、クライエントの作業機能(作業ができる状態)を達成することが、介入の直接的な目標となるのです。作業療法士は、クライエントが現在抱えている作業機能障害に焦点を当て、その解決に向けた介入を行います。作業の練習や工夫、教育などを通して、クライエントの作業遂行能力の向上を図り、作業機能障害の低減につとめるのです。

他方、環境因子や個人因子、心身機能障害の改善そのものが目標になるような介入の場合、作業に焦点を当てていない介入(Non-Occupation-Focused Intervention: NOFI)と呼びます。NOFIは作業療法実践で使いますが、作業療法の専門性を反映していない点に注意が必要であり、作業療法士はOFIとNOFIの違いに自覚的でなければなりません。NOFIは他の専門職の専門性を反映しているため、作業療法士は必要に応じて他の専門職との連携を行うことが求められます。

作業療法士として、クライエントの作業機能障害を改善することは何より大切です。ゆえに、作業機能障害の改善を直ちに目標にする。それがOFIの肝だということを、ぜひ覚えておいてください。

まとめ:OFP・OFE・OFIを使いこなして作業中心の評価・介入を行おう

OFP・OFE・OFIは、作業療法士にとって欠かせないツールです。OFPの評価的側面はOFE、介入的側面はOFIです。OFEを通してクライエントの作業機能障害を理解し、OFIではその評価結果をもとに作業機能障害の改善を目指します。そして、OFIの効果はOFEで再評価することで確認し、介入の終了や継続、修正、調整を行っていくのです。

作業の力を信じ、クライエントに寄り添う。OFP・OFE・OFIを心得た作業療法士なら、きっとそれができるはずです。作業療法士の皆さん、これからも作業中心の作業療法を実践していきましょう。OFP・OFE・OFIがその強力な味方になってくれるでしょう。

文献

京極真,藤本一博,小川真寛・編:OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書.メジカルビュー社,2024

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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