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【第4回】作業に根ざした実践・評価・介入とは?

京極真
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本論では、作業に根ざした実践(Occupation-Based Practice, OBP)、作業に根ざした評価(Occupation-Based Evaluation, OBE)、作業に根ざした介入(Occupation-Based Intervention, OBI)について解説します。OBPは、作業に焦点を当てた実践(Occupation-Focused Practice、OFP)と並んで、作業療法の本質である作業中心の実践(Occupation-Centered Practice、OCP)を体現するものです。また、OBEとOBIは、OBPを構成する中核概念であり、OBEがOBPの評価の側面を、OBIがOBPの介入の側面を表します。これらは、作業療法士が作業療法プロセスを通して、作業を活かすものであり、作業療法の専門性を明確に反映します。また、OBP・OBE・OBIは、作業療法と他の療法との差別化を図るうえで重要な役割を果たします。ゆえに、OBP・OBE・OBIの理解は作業療法士にとって欠かせません。

しかし、作業療法の歴史を見えるとわかるように、OBP・OBE・OBIは作業療法士にとって理解が難しい概念でもあります。作業療法士は過去に作業療法プロセスで作業を活かさなかったことがあり、初学者にはハードルが高いと感じられるかもしれません。そこで、本論では、OBP・OBE・OBIについてわかりやすく解説します。あなたは本論を読むことによって、OBP・OBE・OBIの特徴や方法を理解し、作業療法士としての専門性を高め、クライエントの作業機能障害の解決に向けた実践を行うためのヒントが得られるでしょう。

なお、このWeb連載が役立ったという方は、拙著『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』(メジカルビュー社)をぜひご購入ください。この本では、Web連載よりもさらに専門的に詳しく解説しております。本書は、本Web連載を通してOCP・OFP・OBPに関心を持たれた方が、次の一歩を踏みだすための絶好の機会となることでしょう。

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それでは、さっそく本題に入りましょう。

作業に根ざした実践:Occupation-Based Practice(OBP)

専門分野は、その名に核心が反映されています。例えば、薬物療法は、その名が示すとおり「薬物」がこの専門分野の核心です。また、心理療法は、その名が示すように「心理」が核心を担っています。これと同じように、作業療法もその名に専門性が反映されています。それはずばり「作業」です。作業は、作業療法の専門性を体現する主たる方法なのです。

OBPはOFPと並んで、この専門性を意識的に実践に取り入れるためのアプローチです。OBPの最大の特徴は、作業療法プロセスで実際に作業遂行する機会があることです。つまり、クライエントは評価と介入の両段階において、自身にとって意味のある作業に能動的に関与するのです。それによって、作業療法士はクライエントの作業機能障害(Occupational Dysfunction)をよりよく理解し、作業の可能化に向けたアプローチを行えます。作業機能障害は作業(仕事、遊び・余暇、ADL・IADL、休息・睡眠、教育、社会参加、ヘルスマネジメントなど)ができないことです。

前回の記事で取り上げたOFPとの主な違いは2つあります。1つ目は、作業遂行の機会があるかどうかです。OFPは、作業療法士の関心の焦点が常に作業機能障害に向けられている状態です。他方、OBPは、クライエントが評価と介入で実際に作業遂行する機会があることです。作業を行う機会の有無が両者を分けます。2つ目は、関心の焦点の違いです。先に述べたように、OFPは作業機能障害に焦点化されますが、OBPは作業遂行の機会があることであり、必ずしも作業機能障害に関心が焦点化されません。つまり、作業遂行を通して身体機能構造や環境因子の影響に関心が向くことも許容するのです。

作業遂行する機会がない実践はOBPに含まれません。それは、作業に根ざさない実践(Non-Occupation-Based Practice: NOBP)と呼びます。例えば、作業療法に作業工程の一部を取り入れたり、基礎的な機能訓練を行ったり、環境調整したりすることは、実際の作業遂行がともなわないため、NOBPです。もちろん、NOBPは作業療法アプローチの手段の一部ですが、作業療法の専門性を反映していない点を自覚しておくべきです。

作業療法士は、クライエントにとって意味のある作業の可能化を支援します。そのため、クライエントが実際にその作業をどのように行っているのかを理解し、改善を支える作業療法の専門性を反映したOBPが大切なのです。

作業に根ざした評価:Occupation-Based Evaluation(OBE)

OBEの概要

OBEはOBPの評価的側面です。OBEは、クライエントが実際の作業遂行の様子を「観察」評価することであり、作業遂行の質や作業に影響する要因を把握することを目的とします。

例えば、統合失調症を持つクライエントが自炊できなくて困っており、できるようになりたいという作業ニーズをもっているとします。その場合、OBEでは、

  • 普段の自炊のやり方や道具・材料、環境因子、文脈の確認
  • 実際に自炊する様子の観察
  • 自炊に関連する身体機能構造や環境因子、文脈との相互作用 など

などの評価を行います。このように、実際に作業遂行する機会を作り、クライエントがどのように作業を行っているのか、どのような強みや課題があるのかを評価していきます。そして、その結果から介入計画を立案していくのです。

評価時に、実際に作業する機会がない評価は作業に根ざさない評価(Non-Occupation-Based Evaluation: NOBE)といいます。例えば、面接、ROM、MMTなどは作業する機会がともなわないため、NOBEです。NOBEは作業療法評価の重要な技術ですが、実際の作業遂行を評価していないという自覚が欠かせません。

OBEの方法

OBEの方法は大きくわけて、遂行分析、課題分析、拡張課題分析などがあります。それぞれ構成的評価(研究開発されたツールによる評価)と非構成的評価(自然な観察と面接による評価)の両方があります。

1.遂行分析

遂行分析では、作業遂行の質を評価します。これはOFPかつOBPです。

  • 構成的評価の例:AMPS、ESI、ACIS、A-QOAなど
  • 非構成的評価の例:ツールを使用せずに作業遂行場面の観察や参与観察によって遂行技能を分析

2.課題分析

課題分析では、作業遂行に影響する要因を評価し、身体機能、環境、文脈などの要因を分析します。これはNOFPかつOBPです。

  • 構成的評価の例:A-ONE、PRPP、M-FUNなど
  • 非構成的評価の例:ツールを使用しない作業遂行場面の観察や参与観察から身体機能、環境、文脈などの要因の分析など

3.拡張課題分析

拡張課題分析では、作業を構成する要素(作業遂行、作業経験、参加)と状況要素がどのように相互に影響を与え合っているかを分析します。つまり、これはこれはOFPかつOBPです。

  • 構成的評価の例:AMPS、ESIなどを実施し、作業要素と状況要素が互いにどのように影響し合っているかを分析する
  • 非構成的評価の例:ツールを使用せずに作業遂行場面の観察や参与観察によって遂行技能を分析した後に、作業要素と状況要素が互いにどのように影響し合っているかを分析する

OBEのポイント

OBEで最も重要なのは、クライエントが実際に意味のある作業に取り組むことです。そのためには、クライエントのニーズや価値観を尊重し、意味のある作業を特定することが重要です。日常生活の一部として行う作業や、行いたい・行う必要がある作業にかかる問題を優先的に特定します。

例えば、主婦としての役割を大切にしているクライエントが調理や洗濯、掃除などの家事が行えずに困っているとします。その場合、作業療法士は、クライエントができるようになりたい家事作業を評価の対象とします。一方、仕事に復帰したいと願うクライエントであれば、職場で必要とされる作業遂行を評価の対象にします。クライエントにとって意味のある作業は何か、その作業の優先度や重要性はどの程度かを丁寧に聴取し、OBEに反映させることが大切です。

また、可能ならば、実際の環境で実際の道具・材料を使って、実際の作業遂行を観察することも重要です。これは、生態学的関連性といい、クライエントにとって本物の文脈で作業療法を行うことを指します。生態学的関連性があるOBEの場合、病院や施設などの臨床場面だけでなく、自宅や地域などの実際の生活場面で実際の作業遂行の観察を行い、クライエントの実際の作業機能障害を評価するのです。実際には、病院や施設などでOBEを行うことが多いですが、その場合は生態学的関連性の程度が低いことを考慮すべきです。

さらに、OBEでは作業の一部分だけを切り出して評価するのではなく、作業遂行全体の流れを捉え、作業の目的や意味、遂行技能、環境や文脈との相互作用などを総合的に評価することが求められます。作業の準備から片付けまでの一連の流れ、作業の自律性や効率性、安全性、作業の結果に対する満足度なども含めて、多角的に作業遂行を捉えることが大切です。

OBEは、クライエントの実際の作業機能障害を把握するための重要な評価方法です。作業療法士は、クライエントが意味のある作業に取り組む様子を丁寧に観察し、作業遂行の質や影響、文脈との相互関係を詳しく評価します。そして、その情報をもとに、クライエントの作業ニーズに合った介入計画を立てていくのです。クライエントが必要とする作業を通して評価を行い、その人らしい作業の実現を支援することがOBEの肝となります。

作業に根ざした介入:Occupation-Based Intervention(OBI)

OBIの概要

OBIはOBPの介入的側面であり、クライエントが実際の作業に取り組むことによって、作業の習得や適応を促進し、作業遂行能力の向上、健康や幸福の維持・改善・強化を目指します。

例えば、統合失調症を持つクライエントが自炊できずに困っており、できるようになりたいという作業ニーズをもっているとします。その場合、OBIでは評価結果を基に介入計画立案し、

  • クライエントが実際に自炊する機会を提供する
  • 実際に自炊しながら、自分で効率的にできるやり方を教える
  • 自炊を通して適応的な環境、文脈になるよう調整する など

などの介入を実施していきます。このように、実際に作業遂行する機会を作り、その作業ができるように支援し、健康や幸福の維持・改善・強化を図っていきます。

介入時に、実際に作業する機会がない介入は作業に根ざさない介入(Non-Occupation-Based Intervention: NOBI)といいます。例えば、機能訓練、教育プログラムなどは作業する機会がともなわない限りにおいて、NOBIです。NOBIは作業療法介入を構成する重要な技術ですが、実際に作業を通して介入していないという自覚が欠かせません。

OBIの方法

OBIの方法には、作業の練習、作業の適応や代償、作業の般化などがあります。いずれにしても実際に作業に取り組む機会がともないます。

1.作業の練習

作業の練習では、クライエントが選択した作業を直接練習する機会を提供します。作業のやり方を教えたり、見本を見せたり、フィードバックを提供したりしながら作業遂行を強化し、作業機能障害の改善を図ります。

2.作業の適応や代償

作業の適応や代償では、作業の要求と遂行技能のマッチングを図り、作業の難易度の調整、環境や文脈のカスタマイズ、補助具の活用などを行います。実際に作業を行いながら、作業遂行の強化や作業機能障害の改善に向けて、作業を段階づけたり、作業と状況を調整したりします。

3.作業の般化

作業の般化では、様々な場面や状況での作業遂行を促し、実際の生活場面での作業遂行を練習し、作業機能障害の改善を目指します。作業療法中に習得した知識や技能を使い、他の場面でも作業ができるようにしたり、そこで培った知識や技能を応用することによって他の作業もできるように支援します。

OBIのポイント

OBIの重要なポイントは、クライエントが実際に作業遂行することです。そのためには、クライエントのニーズや目標に基づいて意味のある作業を選択し、作業療法の場面で実際に作業を遂行する機会を提供することが重要です。つまり、作業療法士は、クライエントとの対話を通して、その人が望む作業を特定します(OFPまたはOFE)。そして、クライエントが自ら作業の練習に取り組み、作業の工夫を探れるよう支援するのです(OBI)。

また、OBIでは作業遂行能力を向上させ、作業機能障害の改善を目指した介入を行います。作業の練習や適応、代償を通して作業遂行能力の向上を図り、作業の難易度や環境を調整しながらクライエントの能力に合わせた介入を行い、作業機能障害を改善していきます。たとえば、作業に取り組む機会を通して、作業の見本を見せたり、段階づけたり、フィードバックを提供したり、環境を調整したり、適切な道具や材料を提供したりするなどが必要です。

さらに、作業療法を通じて学んだスキルを日常生活の様々な場面で活用できるよう支援することが重要です。また、習得した知識や技術を応用して、新たな作業にも取り組めるよう導くことが求められます。例えば、作業療法室で自炊ができるようになれば、自宅で自炊できるように支援します。また、自炊の技能を応用して、他の作業に挑戦し、可能化を促進します。

OBIは、クライエントの作業ニーズに基づいて、作業遂行能力の向上や作業機能障害の改善を直接的に支援するための介入法です。作業療法士は、クライエントが実際の作業遂行に携わる機会を提供し、作業の練習、適応、代償、般化などを支援します。クライエントの主体性を尊重し、協働的に介入を進めながら、その人らしい作業的生活の実現を目指すことがOBIの肝となります。

まとめ

OBP・OBE・OBIは、クライエントの実際の作業遂行能力を向上し、作業機能障害を改善することができるアプローチです。それにより、作業療法の専門性を活かし、クライエントの健康や活力、幸福の向上に貢献することができます。

作業は、人間の生命や生活の基盤をなすものであり、作業なくして健康で豊かな人生は成り立ちません。病気やけが、障害によって作業が脅かされたとき、人は作業療法士の支援を必要とします。OBP・OBE・OBIは、そうした作業的危機に直面する人々に寄り添い、作業を通じて新たな可能性を拓く手法となるのです。

文献

京極真,藤本一博,小川真寛・編:OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書.メジカルビュー社,2024

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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