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【第3回】作業療法における実際的リーズニング【Web連載】

京極真
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本記事では「実際的リーズニングってなに?それって、どういうこと?」という疑問にお答えします

作業療法士としての日々の業務は、単に技術や知識を適用するだけではありません。

それぞれのクライエントは独自の背景やニーズを持ち、それに対応するための評価や介入は多岐にわたります。

このような状況で、どのようにして最も効果的な作業療法を提供することができるのでしょうか?

その際、多くの読者は、作業療法の実践における独自の課題や複雑さに直面していることでしょう。

特に、作業療法の方針を決定する際の判断基準や、限られたリソースの中での最適な方法の選択など、日々の業務における難しさを感じているかもしれません。

この記事では、そんな読者の悩みに応えるため、作業療法における「実際的リーズニング」という思考法を解説します。

実際的リーズニングを理解し、実践することで、クライエントの作業ニーズに応じた効果的な作業療法を提供する方法を探求することができます。

このリーズニングを取り入れることで、作業療法士としての質をさらに高め、クライエントにとっての最大の価値を追求することができるでしょう。

なお、本記事の内容をさらに理解したい人は、私が編著者を務めた『作業療法リーズニングの教科書』もあわせてお読みくださいね。

Web連載(リーズニング編)は、毎月第2月曜日・第4月曜日(年末年始を除く)のペースでアップする予定です。

作業療法における実際的リーズニングとは?

リーズニングとは?

リーズニングとは、作業療法士がクライエントの日常生活で体験する作業機能障害を理解・改善するために使う思考方法です。

基本的なプロセスは「疑問を立てる→疑問に答える」です。

このリーズニングは一般的に以下のような手順で進められます。

  1. 疑問を生成する:作業療法士は、クライエントに関する何らかの疑問を特定します。これは、リーズニングの出発点であり、思考するうえで最も重要です。
  2. 情報を収集する:作業療法士は、疑問にそって情報を集めます。情報源は、スクリーニング、面接、観察の他に、論文や著書、他職種からの情報、倫理原則、法律なども含まれます。
  3. 情報を分析する:作業療法士は、収集した情報を整理・検討します。疑問の解消・解決に役立つ情報を見つます。
  4. 疑問を解消・解決する:作業療法士は、分析した結果をもとに、最初に考えた疑問が解消・解決できるかを判断します。それは次の新しい疑問につながったり、具体的な評価や介入に発展したりすることもあります。

作業療法士としての私たちの仕事は、作業機能障害を理解したり、解決したりすることであり、リーズニングはそのための欠かせないスキルです。

実際的リーズニングとは?

作業療法士は、それぞれのクライエントや実践の文脈に合わせて柔軟に、知識や技術を活かす必要があります。

この過程で非常に重要となるのが「実際的リーズニング」です。

では、具体的に実際的リーズニングとは何なのでしょうか?

実際的リーズニングは、クライエントとの関係を超えて、作業療法が行われる「状況」を考慮する思考プロセスを指します[1]。

つまり、実際的リーズニングはクライエントその人について考えるのではなく、クライエントに対する作業療法を取りまく状況について考えることです。

これは、作業療法の効果や成果を最大化するために、その背景や文脈を深く理解し、それに基づいて作業療法プロセスを展開するためのリーズニングなのです。

作業療法は、単に病院や施設の中だけで行われるものではありません。

クライエントの生活環境や社会的背景、文化や価値観など、さまざまな要因が作業療法プロセスに影響を与えます。

実際的リーズニングを用いることで、これらの要因を考慮し、最適な作業療法を選択することができます。

作業療法における実際的リーズニングのコツ

作業療法士として、私たちは常に最適な方法を追求しています。

しかし、実際の現場ではさまざまな制約やリソースの限界に直面することがあります。

このような状況で効果的な作業療法を提供するためには、実際的リーズニングの技術を磨くことが不可欠です。

では、具体的にどのようなコツがあるのでしょうか?

文脈を認識する

 実際的リーズニングは、作業療法が行われる「状況」を考える思考プロセスです。

このリーズニングでは、実践の文脈における制約や可能性を分析し、効果的な方法を選択します。

例えば、リソースの有無、時間的制約、利用可能な道具や環境など、治療に関わる実際の要因を考慮することが含まれます[2]。

なので、実際的リーズニングでは実践の文脈を認識するようにしましょう。

柔軟に対応する

このリーズニングは、現場での即興的な判断を行うときにも使います[2]。

作業療法士はしばしば予期せぬ状況に遭遇します。

例えば、治療に必要な道具が壊れたり、他のスタッフとの連携がうまくいかなかったりすることがあります。

このような場合には、実際的リーズニングによって迅速かつ柔軟に対応し、クライエントのニーズに合わせて方法を変更することが求められます。

チームメンバーとの関係性を考慮する

実際的リーズニングでは、作業療法士が患者だけでなく、他のメンバーや関係者とも連携することが重要だと認識します[1]。

例えば、意思決定に影響を及ぼす可能性のある力関係やチームのダイナミクスを理解し、コミュニケーションや協働を円滑に行うことが含まれます。

クライエントを取りまく人的環境について考えることによって、状況を考慮した作業療法を行います。

自己認識を深める

実際的リーズニングには、作業療法士自身の状況や能力、価値観、専門性、ライフスタイルなどの要因を考えることも含まれます[1]。

このリーズニングでは、自分自身の制約や強みを認識し、作業療法に活かしていきます。

例えば、自分自身の知識や技術のレベルや更新方法、自分自身の価値観や信念とクライエントや他者との相違点や共通点、自分自身の健康やストレス管理方法などを考慮することが含まれます。

実際的リーズニングのプロセス

実際的リーズニングは、クライエントその人について考えることではなく、作業療法を取りまく状況について考えていくことです。

そのプロセスを例示すると、以下のようになるでしょう。

  1. 疑問を生成する:実際的リーズニングでは、作業療法を取りまく物理的・社会的な状況、実践環境、スケジュールなどの様々な文脈や現実的制約にかかる疑問を生成します。例えば「クライエントの強みとなる社会的資源は?」「介入で他に利用できる道具・材料は?」などです。
  2. 情報を収集する:生成した疑問にそって情報を集めます。例えば「クライエントの強みとなる社会的資源は?」という疑問を立てたら、それについてクライエントや家族に確認したり、チームメンバーに情報を求めたりします。
  3. 情報を分析する:集めた情報を評価し、作業療法で活用できそうな状況、資源、道具・材料、周囲の人々などを把握していきます。収集した情報を分類し、重要度や優先度に応じて並べ替えたり、情報の正確さや信頼性もチェックしましょう。
  4. 疑問を解消・解決する:分析した情報をもとに、最初に立てた疑問に答えを見つけます。作業療法を取りまく状況を有効活用したり、代替案を見いだしたりします。

実際にはもっと複雑な思考プロセスになりますが、基本的には作業療法を取りまく文脈にかかる疑問を生成し解決するかたちになります。

作業療法士のためのリーズニング学習支援ツール

以上のようなリーズニングを習得するための教材として、「作業療法士のためのリーズニング学習支援ツール」を無料で提供しています。

Microsoft Excelで作成したアプリケーションでして、Windows、Macのどちらでも動きます。

作業療法リーズニングを習得したい人は、ぜひご活用ください。

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実際的リーズニングのメリットとデメリット

実際的リーズニングにはメリットだけでなく、デメリットも存在します。

メリット

実際的リーズニングを用いることで、作業療法が行われる実践の文脈を深く理解し、それに基づいて評価や介入を選択することができます。

これにより、クライアントの真のニーズに応じた効果的な治療を提供することが可能となります。

また、実際的リーズニングを活用することで、チームメンバーや利用可能なリソースとの協力を最大化することができます。

これにより、治療の効果をさらに高めることが期待できます。

デメリット

一方、実際的リーズニングを用いると、実践文脈の制約により、理想的な治療方法を選択できない場合があります。

例えば、リソースの限界や組織の方針など、さまざまな要因が治療の選択を制限することが考えられます。

また、実際的リーズニングには、作業療法士自身の個人的な状況や価値観が影響することがあります。

これにより、作業療法士が文脈にしばられて、よりよい判断が難しくなる場合があります。

まとめ

実際的リーズニングは、作業療法の実践の文脈を深く理解し、それに基づいて評価や介入を選択する思考法を指します。

これにより、クライエントの作業ニーズや作業療法の現実を考慮した方法を提供することが可能となります。

また、チームメンバーや利用可能なリソースとの協力を最大化することで、治療の効果をさらに高めることが期待できます。

日々の業務の中で実際的リーズニングを活用し、作業療法を実践する条件を考慮しながら、よりよい作業療法を提供しましょう。

作業療法リーズニングをもっと学びたい人へ

本記事では、作業療法リーズニングの一種である科学的リーズニングについて解説しました。

作業療法リーズニングはこれ以外にも、科学的リーズニング、物語的リーズニング、倫理的リーズニング、相互交流的リーズニングがあります。

また、その基盤には作業中心のリーズニングが存在しています。

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このセミナーでは、私(京極)が講師を務めており、作業療法リーズニングについて詳しく解説しています。

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文献

[1] 藤本一博,小川真寛,京極真・編:5つの臨床推論で整理して学ぶ 作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2022

[2] Gillen G, Brown B (Eds). Willard & Spackman’s occupational therapy 14 ed. Wolters & Kluwer, Baltimore, 2023

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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