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精神科作業療法の効果は作業療法士かどうかで変わるのか

京極真
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本記事では「精神科作業療法は作業療法士以外にも看護師、臨床心理士など他の職種も実践することがあります。職種の違いによって精神科作業療法の効果は変わるのですか」という疑問にお答えします

精神科作業療法の効果は作業療法士かどうかで変わるのか

結論:謎

結論は以下の通り。

結論

実は、この問いに答えるべくシステマティックレビューが実施されました。

その結果、統合失調症者を対象に「作業療法士が実施した作業療法」と「作業療法士以外が実施した作業療法」を比較して、効果に違いがあるのかを調べたランダム比較試験が存在しないことがわかりました。

つまり、精神科作業療法の効果は作業療法士かどうかで変わるのかという問いに対する解答は「わからない」です。

「わからない」は差がないという意味ではなく、比較した研究がないから差があるとも、ないとも言えないという意味です。

問いの背景

そもそも、なぜこのような問いが成り立つのでしょうか。

精神科作業療法の目的は、精神障害をもつクライエントを対象に、意味のある作業への参加を通して作業機能(作業遂行、作業参加)を改善することです。

クライエントの個別化されたニーズにそって生活支援するのが、精神科作業療法の役割なわけです。

ところが、こうした実践は作業療法士以外でもやっています。

日本の場合、例えば医師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士などが、作業療法に極めて近い実践あるいは作業療法の実践を行うことがあります。

そのため、作業療法の訓練を積んだ専門家である作業療法士が提供する作業療法は、他の職種が提供する作業療法に比べてどう効果があるのか、という疑問が湧いてくるわけです。

その結果は上述した通りでして、今後、作業療法の専門家である作業療法士が提供する作業療法は、他の職種が提供する作業療法に比べてよりよい結果をもたらすのかどうかを調べる必要があります。

精神科作業療法の効果の差を引き出すポイント

関連する研究論文を踏まえると、作業療法士が実施する作業療法でよりよい結果を引き出すポイントが見えてきます。

精神科作業療法の効果に関するメタ分析

精神科作業療法の効果に関するメタ分析があります。

簡単に言うと、メタ分析は複数のランダム化比較試験をまとめて分析しなおすものでして、その質は元のランダム化比較試験の質によっても左右されますが、方法論としてはエビデンスレベルでいうと最上位にあります。

上記のメタ分析によると、精神科作業療法は作業遂行とwell-beingの改善に効果的だということが示されました。

面白いのは、このような効果を示す精神科作業療法は「作業療法に関連する理論を使っていた」という点です。

作業療法に関連する理論というのは、例えば、人間作業モデル、作業遂行と結びつきのカナダモデルなどです。

逆に言うと、明確な理論に基づかない精神科作業療法の効果は弱いあるいは乏しいということです。

well-elderly study

理論を活用した作業療法が、そうでない介入に比べて効果を示すというのは、作業科学を一躍有名にしたwell-elderly studyでも明らかにされていることです。

これは虚弱高齢者を対象にした研究ですが、作業科学の知識に根ざした作業療法群、社会活動群、無介入群を比較して、社会活動群と無介入群では差がないこと、作業科学の知識に根ざした作業療法群はこれらの群に比べてQOLを改善し、費用対効果も優れていることを明らかにしました。

結論:理論を活用せよ

well-elderly studyは虚弱高齢者を対象にした予防的作業療法の研究です。

なので、飛躍した考察は慎むべしですけど、上記のメタ分析の結果も同様の傾向を表しています。

こうした研究から言えそうなことは、精神科作業療法で作業療法士がよりよい結果を出すには、漫然と作業を提供しているだけではどうにもならず、作業療法に関連する理論を適切に活用すべしです。

作業療法士は作業療法の専門家です。

なので、今後、作業療法の専門家である作業療法士が提供する作業療法は、他の職種が提供する作業療法に比べてよりよい結果をもたらすと示していく必要があります。

そのためには、現時点でわかっていることとして「理論の活用」がどうも不可欠そうだ、ということはいえるでしょう。

まとめ:精神科作業療法の効果は作業療法士かどうかで変わるのか

本記事では「精神科作業療法は作業療法士以外にも看護師、臨床心理士など他の職種も実践することがあります。職種の違いによって精神科作業療法の効果は変わるのですか」という疑問にお答えしました。

結論

というのも、こうした疑問をもちやすい背景があるものの、両者を比較したランダム化比較試験が存在しないためです。

関連する研究論文を見ると、作業療法に関連する理論の活用でどうにかなりそうな気配があるので、作業療法士は作業療法に関連する理論をきっちり活用していくべしです。

著者紹介
京極 真
京極 真
Ph.D.、OT
1976年大阪府生まれ。Ph.D、OT。Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:人間科学部長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程・終了。『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』『OCP・OFP・OBPで学ぶ作業療法実践の教科書』『作業で創るエビデンス』など著書・論文多数。
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